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*白い夜
*叩かないで下さい

★白い夜★
「何か生温かい感じの夜だな、今日は飲むのを少し控えれば良かった」 と男は半分呟きながら夜道を歩いていた、郊外の駅を降りてから15分程の距離だか 住宅地へ向かう道はもう12時を過ぎると人通りはまったく無くまばらな街燈が 寂しく灯っているだけだった、男はあれこれ考えながらコートの襟をすこし緩めて ふらついた足を運んでいた。  なにかちらっと目の前をかすめていった、 「おや雪かな?こんなに暖かいのに、それとも飲んでいるせいかな?」 顔を上げると白いものがかなり落ちてくるのが見えた、 「なんだ天気予報はそんな事言っていなかったのに」 とぼやきながら辺りを見まわした、右側の林は真っ暗で何も見えなかった,反対側は 畑らしく何かの野菜が青黒く見えた。  白い雪は次第に多く降り始めた,なぜか自分の周りにだけ多く降っているように 見えるのは夜目のせいだと納得しながら足を進めた、なぜかぜんぜん寒くなかった, 寒いと言うより逆に暖かい感じがした、気分は何かウキウキしてきた、口笛でも 吹きたくなってきた。  相変わらず空からは白いものが落ちてきて来ていた、周りも少し白くなってきた ように見えた、男の頭にも襟元にも積もる感触があった、気分は更になんとも 言えない楽しい気分になってきた体が火照ってくるのを感じ、なぜかコートを むしょうに脱ぎたくなった。もうたまらなかった、ついにコートを脱いで腕に抱えた、 まだからだの火照りは収まらなかったと言うより何か夢を見ている様な気持ちになった、 男は更に上着も取って襟を緩めた、それは更に強く頭や襟に降り注いだ来た。  もう何も考えたくなかった、どうでも良い気持ちになった,男は道端に腰を かがめて座り込んでしまった、まるで夢を見ているような、又天にも昇るような 気持ちになっていた。 「あ〜最高だ」 男は叫ぶとそこでとうとう着ている物を殆ど脱いでしまい寝そべってしまった、 彼の体は完全に白い色で覆われてしまった。 「第一波降下完了!、第二波続いて降下中」 「大丈夫だ行けそうだ!全面作戦に入れ!」  「判りました!全面作戦に入ります!」 「第二船団,第三船団へ、全面作戦を展開せよ!」 宇宙船の中は更にあわただしくなった、皆は右往左往とあわただしく動きながら各自の 持ち場に向かい機械の操作を急いだ  男は完全に夢を見ているような気持ちだった、もう最高の気分だったもうどうでも 良かった何でもしてくれという気だるい感じとなった、男の上に積もった白い雪は すこし赤く変わって人の形をかたどっていた。 「司令官!侵入は成功しました、この国の生き物は非常に巨大です、頂上には太い 柔らかな黒い林があります、そしてその下は厚いプロテクターに覆われていましたが 生き物の意識をコントロールして剥がすことに何とか成功しました、意外にも意識細胞の コントロールは簡単でした、体内侵入と食料の生態状態保存化に成功しました」 成功だ!船内はにわかに色めきだった, 「急げ!!この作戦は気づかれずにやらないと完全に成功しない!」 司令官の声に厚い雲の形と見間違う様な幾つもの宇宙船から続々と、、、 白いものは更に激しく降ってきた、氣が付くと道のあちこちに人の形をした赤い固まりが ほらそこにも、、。 ーー1999/2 ―― 完――

★叩かないで下さい★
 武蔵野の朝は気もちが良い、男は最近好んでここを歩くようにしている、定年になって何もする事がないまま 少なくとも体力だけは落とさない様に身体を動かしていようと毎朝散歩する事に決めていた。  最初色々なコースを歩いて見たがこの武蔵野の風情が残っているこの雑木林の中を通るコースが一番の お気に入りだった、更にもう一つのお気に入りである携帯のFMラジオと、前にここを通る時手に入れた伐採して 捨ててあった潅木を削って作った杖が何時もお供していた、決して足が悪いわけではないがこの杖で潅木の 下の草むらを掻き分けて茸などがひっそり生えているのを観察したりする楽しみの為だった。  今日もお気に入りの音楽番組を聞きながら朝日がこぼれ日でまだらに光っている道を歩いていた、 ふと気がつくと目の前に見なれない小さな木が生えていた。  「おや?なんだこの木、前からあったかな」 と呟きながら立ち止まってしげしげと眺めた、特に変わっている訳でもなく一寸すべすべした感じの3センチ位の 幹につばきの様に光った変な格好の葉っぱがついているのだが何か妙にアンバランスな感じがしたのだった。  男は愛用の杖を伸ばして葉っぱの裏側を持ち上げて見てみた、やや白っぽい感じで特に変わっていなかった 更に杖の先で幹を突っついてみた、そしてコンコンと2,3回叩いた時、突然  「叩かないで下さい、、」 という声が頭の中に微かに聞こえたような気がした、一瞬叩くのを止めて当たりを見まわしたが何もない見なれた 景色だけだった。  気のせいだったか!と、もう一辺杖で叩こうとした所今度ははっきりと  「叩かないで下さい」と女のような声が頭の中に響いた、男は声を殺して  「誰だ!」 尋ねたが返事は無い、耳を済ますが遠くの鳥の声が聞こえるだけだった、もう一度大きな声で  「誰なんだ!何の用だ!」 辺りを見まわしながら叫んだ、すると今度はハッキリとした声で  「私は貴方が叩こうとした目の前の木です、痛いから止めてください」 一瞬ギョッとして目の前の木を見つめた、木はなにも無いように微かに揺れていた。  「判った、でもどうして木が私に話が出来るんだ?何故だ!」  男は全身を耳にして声を待った、暫らく何も声は聞こえなかった、気がつくとラジオの音楽が相変わらず ラテンの軽快なリズムを奏でていた、やおらして又声が音楽を押しのけて聞こえてきた。  「もういいです、ともかく止めてください、、話しても仕方ないです、、」  「そんなことあるもんか!人を止めさせておいて仕方ないは無いだろう!!又叩くぞ!」 男はやや語気を強めて言ったが、誰もいない所で木に向かって喋っている自分が可笑しいと気づき振りかえった が何もそれらしい人影はみえなかった。  又間を少し明けて声が聞こえた  「貴方に話す必要はありませんが、叩かれるのは好きじゃ有りませんこれ以上苛めなければお話します、  これは本当の事です、でも信じて貰えないでしょうけど、、」  「よし、判ったもう止める、では話して見ろ!」 男は下ろした杖にもたれながら声を待った。  「私は昨夜ここに来ました、私達は貴方達の銀河系星雲と呼んでいる星雲のほぼ反対側から来ました、  我々の星が大衝突を起こす事が判ったので全員脱出してきたのです、我々は暫らく地球の様子や文化などを知るため  もう百年くらい地球のあちこちで生活しています、、、」  「待てよ!そんなら何故姿を見せないんだ」  と口を挟んだ  「仕方有りません、私達は地球で言う植物が進化した生き物なんです,これでは決して受け入れて貰えないと  思っているのです、ある程度形は変えられますが限度があります,幸い地球の植物に非常に似ているので  殆ど気付かれないで生活できます」  「まてよ!、そんな話聞いた事が無い私が始めて聞いた訳ではないだろうが、、、」  と呟く様に言った。  声は更に続いた。  「そうです,色々なところで話してますが誰も信じてもらえないので埋もれて仕舞っています、貴方もそうでしょう!  この話をしても誰も信じないで作り話と言われるでしょう、、我々も別に信じて呉れなくても良いと思っています  明日になればもう少し真実が判ると思います,同じ頃にここに来て下さい,それまでそっとしておいて下さい  お願いします、、」  「よし!一つ教えてくれ!何処で喋っているのだ?何処に頭があるのだ?」  少し間を置いて声は続いた。  「我々に頭は有りませんが神経の中枢に当たるところが根の間にあります,話は枝からの電磁波で呼びかけて  います」  [なるほどそう言う仕組みか!」  男は考えた、嘘だろう、しかし本当かも知れない、、突然の事で混乱していたがやや冷静になりとりあえず  この木の言う事を聞く事にした。  「判った明日になればもっと判るんだな,いいだろう、言う通りにしよう」  「有難う御座います、お約束します、、、」  声は途絶えた、男は木の周りをしげしげと見渡した、なぜかその木が震えたような気がした。  ふと気がつくと時間が迫っていた、運悪く出かける都合があったので気になるが家に帰らなくては  ならなかったのだった。  「では明日又来るからな、良いな!」  声は無かったが木は又微かに揺れたような気がした。  まだ色々聞きたかったが仕方無かった、未練を残しながら何度も振りかえりつつその場を立ちさって行った。  「まあいいか,よし!明日聞こう!」  と呟きながら足を早めて行った。  その日一日その事で頭が一杯だった、出かけた先の人も「どうしたんだ〜何か悩み事でもあるのか?」  等といわれたが人に話したくは無かった、自分ひとりの物凄い特種だと思って時々ほくそえむのを自分で  感じていた。  その夜、男は色々なことを考えていた、果たして本当だろうか?短時間に何を質問しようか?そうだ写真を  撮ろう!、いや,テープに録音しよう、サンプルを貰えないかな?何か証拠が欲しい,,等などメモ用紙に  色々と書きつけて用意した。  次の日朝早く目がさめてしまった、いつもより30分も早く色々の器具を担いでいそいそとその木の所に  急いだ、木はまだそこにあった、男は辺りを見まわしひと気が無いのを確かめて気に向かって話し掛けた。  [おい!約束どうり来たぞ!」  暫らく待ったが何の声も聞こえなかった。  「どうしたんだ,昨日約束したので又来たんだぞ!!」  男はやや声を大きくして怒鳴る様に言った。  微かに枝が震えた様にも見えたがまだ何も聞こえなかった。  突然男は気がついた[そうだラジオだ!!」 なんと今日はカメラやテープに気を取られ昨日着けていたラジオを忘れて来ていたのだった  「しまった!!」「しまった!!」と叫びながらまさに家まで飛んで帰ってFMラジオを鷲掴みに掴むと現場に取って返した。  息をゼイゼイしながらスイッチを入れ、イヤホーンを耳に押しこみながら木に向かって怒鳴る様に話し掛けた  「おい!来たぞ!返事してくれ!」  ドキドキする胸の動機にかき消されない様に耳を済ました  「・・・・・・・・・」  しかしなにも聞こえて来なかった、あまり息を潜めていたので苦しくなり大きく息をつきながらも一度尋ねた。  「おい!聞こえるか?返事を呉れ!!」  しかし何にも聞こえてこない、そうか波長か!とFM局の表示を見たが昨日と同じ局だった。  あせりが頭をかく乱した、「なんだ!なんだ!何が違うんだ!」いくら考えても判らなかった。  男は何度も何度も話し掛けながら答えを待った、返事は無かった。  気がつくと同じように散歩している人が近づいてきたので何気ない様に会釈してその場を取り繕い  やり過ごしてから又小声でしっかりと尋ねた。  しかし何も返事は無かった、木をゆすってみた、叩いても見た、しかし何の反応も無かった。  やや呆然としていたがふと思い出した、「そうだ!根の所に中枢機能が、、、、」  男は愛用の杖で根の所を必死に掘り始めたすると何やら白い紙のようなものが出てきた、「おや!」  取り上げて折り目を広げたその紙には一行こう書いてあった。    「マイク、ミニFM放送、双眼鏡、−−−4月1日」 ーー99/8                            完  


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